大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)2037号 判決 1977年5月31日

控訴人

日本土地株式会社

右代表者

由利昇資

被控訴人

武田昇こと

孫晟杓

右訴訟代理人

土橋忠一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代表者は、適式の呼出を受け乍ら本件口頭弁論期日に出頭しないので、控訴状を陳述したものとみなすに、これによれば「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)のうち、一階東端の建物部分床面積約52.89平方米(以下本件建物部分という)を明渡し、かつ、昭和四四年一二月二三日以降昭和四六年三月三一日までは月額一万四九七四円の、同年四月一日以降昭和四八年三月三一日までは月額一万九八三一円の、同年四月一日以降昭和四九年三月三一日までは月額二万八八八五円の、同年四月一日以降右明渡しずみまでは月額三万二三九四円の各割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者らの主張および証拠の提出・援用・認否は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一<証拠>によれば、控訴人は本件建物につき、昭和三六年八月二九日大阪地方裁判所が訴外佃君枝の競売法による競売申立につきなした競売開始決定により進められた競売手続において、昭和四三年七月一九日競落に因りその所有権を取得し、昭和四四年一二月二二日その所有権移転登記を経由していることが認められるところ、被控訴人が本件建物部分を占有していることは当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると、本件建物の競売手続の経過等は左のとおりであるところ、被控訴人は、遅くとも昭和三六年頃までに、本件建物の当時の所有者である大阪殖産有限会社から本件建物部分を賃借して、その引渡しを受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

昭和三四年一二月二三日

佃君枝の抵当権(以下第一抵当権という)設定登記

昭和三五年 三月 二日

株式会社近畿相互銀行の抵当権(以下第二抵当権という)の設定登記

昭和三六年 八月二八日

第一抵当権による競売申立(大阪地裁昭和三六年(ケ)第二七八号)

同年 八月二九日

右競売開始決定

同年 九月 一日

競売申立記入登記

昭和四二年 八月二二日頃

第二抵当権による競売申立(大阪地裁昭和四二年(ケ)第二五〇号)・同日昭和三六年(ケ)第二七八号に記録添付

同年一〇月一八日

昭和三六年(ケ)第二七八号事件競売申立取下

同年一〇月二〇日

許権伊の抵当権(以下第三抵当権という)設定登記

昭和四三年 七月一九日

控訴人の競買申出に対する競落許可決定言渡

同年 七月二六日

右競落許可決定確定

昭和四四年 四月一八日

第三抵当権による競売申立(昭和四四年(ケ)第二二九号)・同日昭和四二年(ケ)第二五〇号に記録添付

同年一二月一六日

第二抵当権につき抵当債務全額弁済

同年一二月二〇日

控訴人競落代金納付

同年一二月二二日

控訴人のため競落による所有権移転登記

三右認定の事実によれば、右第二抵当権の抵当債務が弁済された以後は、右競売手続は、右第三抵当権を基礎として進められ、控訴人はこれを基礎として本件建物の所有権を取得したこととなるから、右第三抵当権の設定以前である昭和三六年頃までに、本件建物部分を賃借し、その引渡を受けた被控訴人は、その賃借権をもつて控訴人に対抗し得るものというべきである。蓋し、競落許可決定確定後であつても、競売手続の完了(競落代金の支払)前に債務が消滅すれば、競売手続において債務者が異議抗告等の不服手段に訴えたかどうかに関係なく、競落人は代金支払により所有権を取得しえないのであるから(昭和三七年八月二八日最高裁判所第三小法廷判決・民集一六巻八号一七九九頁参照)、本件の如く、先行競売申立事件における競落許可決定確定後代金納入前において、後行競売申立事件の記録添付がなされた後に、先行競売申立事件の基本たる抵当債務が弁済により消滅したときは、そのことが該競売手続に反映されると否とに拘らず、もはや競落人は、先行競売申立事件に基づいては所有権を取得するに由なく、その後競落人にいて競売代金を納入した場合には、後行の記録添付事件に基づいて所有権を取得し、従つて競落人は、その所有権取得の基礎となつた同事件の抵当権の設定登記前に対抗要件を具備した賃借権の負担を受くべきものと解すべきだからである。

四すると被控訴人の賃借権の抗弁は理由があつて、控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきものである。よつて、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないので、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(本井巽 坂上弘 潮久郎)

目録

大阪市生野区桃谷三丁目一九番地、二〇番地、二一番地の一

家屋番号 三〇〇番

木造瓦葺二階建店舗兼居宅

床面積 一階 384.39平方米

二階 361.95平方米

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例